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2005.11.17

もう冬じゃないか。

けしからん。
最近、季節が私を置いていきがちである。
以前はむしろ私が先導しているくらいだったのに。

夏の終わり頃、室内で見かけたやもりの安否が気遣われる。
あの時。 ああ、あの時。
そのへんの物をどかしてでも救出してやればよかった。
しかしなあ。
動きが速すぎるんだ、お前は。
うらむなら己の身体能力をうらむんだ。
しかし、いつか私が引っ越しをするとき、
得体の知れない干乾びた灰褐色の塊をタンスの裏から見つけたとしても、
私は叫び声ひとつもらすまい。
顔色ひとつ変えまい。
それがせめてもの恩返しだ。
べつに恩はないけどね。
いや一期一会に対する礼儀として。
そうさせてもらうよ。 勝手にな。

こうしてまた冬が、呼んでもないのに日本に駆けつける。
いったい何枚着せる気だい?
それにしても、
灯油代が高くてびっくりしたよ。


                         おしまい。









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